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福岡高等裁判所那覇支部 昭和48年(う)127号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人崎原盛治および同比嘉昇連名作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、つぎのとおり判断する。

一控訴趣意第一点(訴訟手続の法令違反の主張)について。

所論は、要するに被告人は、恐喝未遂の事実について家庭裁判所において観護措置を受け、同事実につき逆送決定をされたが、所定の期間内に同事実については公訴は提起されていないから、被告人に対し勾留を継続したことは違法であり、したがつて、違法な勾留中に作成された被告人の捜査官に対する各供述調書は証拠能力がないというものである。

よつて、原審記録および当審取り調べの結果によると、昭和四七年一〇月二七日那覇家庭裁判所コザ支部裁判官は、検察官の少年法四三条一項の請求にもとづき、被告人(当時は被疑者)に対し、恐喝未遂の事実について、同法一七条一項二号の措置(いわゆる勾留に代わる監護措置)をとつたこと、同年一一月六日那覇地方検察庁コザ支部検察官は、右恐喝未遂の事実を右裁判所に送致したため、被告人に対する勾留に代わる観護措置は、同法一七条五項により、同日から同法一七条一項二号の措置とみなされるにいたつたこと、さらに、同月二〇日右の更新決定がされたこと、同年一二月一日、被告人に対する窃盗、脅迫および傷害の各事実が追送致されたこと(この各事実については、監護措置はされてない。)、同月二日、右裁判所は、右恐喝未遂、窃盗、脅迫および傷害の各事実を併合審判のうえ、右全部の事実について、同法二〇条により検察官に送致する旨の決定をするとともに、少年審判規則二四条の二に定める手続をとつたこと、右の送致を受けた右検察庁検察官は、同月一一日窃盗および傷害の事実について公訴を提起したこと、被告人に対する勾留は継続され、右窃盗および傷害の事実により勾留更新の手続がなされていることが認められる。

ところで、少年法一七条一項二号の措置(監護措置)は、家庭裁判所が審判の対象となるべき少年について主として審判を行なうために必要な資質および環境の調査を行なうためにする収容処分であり、この意味において、非行事実よりもむしろ当該少年に重点の置かれている面のあることは否定できない。しかし、右措置は、特定の非行事実についてなされるものであり、しかも少年の身柄拘束を伴うものであるから、刑訴法六〇条の、罪を犯したと疑うに足りる相当の理由と同程度の理由が存在することが必要であり、その存在についての判断がなされることが前提となるものと解するのが相当である。したがつて、少年法一七条一項二号の措置の効力は、その基礎となつた事実(甲)についてのみ生ずるものと解すべきであり、これに追送致された在宅事件(乙事実)が併合されても、右措置の効力は追送致された乙事実に当然には及ばず、したがつて、この場合、乙事実についてだけ検察官送致の決定(少年法二〇条)がされたときは、同法四五条四号の適用はないものといわなければならない。しかしながら、同法一七条一項二号の措置の基礎となつた甲事実とこれに併合された在宅事件の乙事実とが同時に検察官に送致(同法二〇条)された場合には、当該少年は、少くとも、甲事実との関係では、同法四五条四号によつて勾留されることになるのであるから、乙事実についても勾留の要件が具備していれば、検察官送致決定によつて、乙事実についても勾留とみなされる効力が及ぶものと解しても、少年審判規則二四条の二による手続がなされているかぎり、少年の人権を害するおそれはなく、したがつて、この場合には、むしろ手続の簡易迅速という点を考慮し、少年法四五条四号によつて勾留とみなされる効力は甲および乙の両事実に及ぶものと解すのが相当である。

そうだとすれば、本件の場合、同法四五条四号によつて勾留とみなされる効力は、監護措置の基礎となつた恐喝未遂の事実のみならず、追送致にかかる窃盗、脅迫および傷害の事実に及ぶことになる。そして検察官は、被告人に対し、右勾留にかかる事実のうち窃盗および傷害の事実につき、起訴前の勾留期間内に公訴の提起をしているから、被告人は、昭和四七年一二月一一日に起訴された窃盗および傷害の事実により適法に勾留されていたものと認められ、またその後の勾留更新の手続にも何ら違法の点はない。

そうすると、被告人の勾留手続には所論のような違法はなく、また被告人の捜査官に対する各供述調書は、適法な身柄の拘束中になされたものというべく、原審記録を精査しても供述の任意性を疑わせる点はないから、原審の訴訟手続には、所論のように証拠能力のない証拠を採用した違法はない。論旨は理由がない。

二控訴趣意第二点(公訴権の濫用の主張)について。

所論は、要するに控訴趣意第一点で述べたように被告人の捜査官に対する各供述調書は証拠能力がなくしたがつて、窃盗の公訴事実については、被害届のほかに証拠がなく公訴を維持できないから検察官は、公訴を取り消すべきであり、これをなさなかつたことは公訴権の濫用であり、公訴棄却の判決をすべきであつたのにこれをしなかつた原判決は違法であるというものであるが、前述のように被告人の捜査官に対する各供述調書は証拠能力を有するから前提を欠くものというべきである。また記録を調べても公訴権の濫用をうかがわせる点は全くない。論旨は理由がない。

三控訴趣意第三点(量刑不当の主張)について。

よつて、本件記録を精査して審案するに、本件各事案の態様、罪質はいずれも悪質、かつ、危険なものであり、被告人は窃盗罪により沖繩の刑法による懲役刑に処せられ、出所して間もなく本件各犯行に及んでおり、被害の程度、被告人の生活態度等に徴すると、犯情には軽視を許されないものがあり、被告人の責任は、極めて重いといわなければならない。

所論が指摘し、証拠上も明らかな、原判示第四および第七の被害者に対する弁償の事実のほか、被告人の身上、性行、現在の境遇等、被告人に有利な情状を斟酌してみても、原判決の量刑は、まことにやむを得ないところであつて、重きに過ぎ不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、本件控訴は理由がないから、刑訴法三九六条により、これを棄却することとし、刑法二一条により、当審の未決勾留日数中一六〇日を原判決の刑に算入することとして、主文のとおり判決する。

(屋宜正一 比嘉輝夫 堀籠幸男)

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